40代男性が1年間の育児休業を申請すると、職場ではどんな反応があるのでしょうか?
まだまだ「育休=女性のもの」という認識が根強い中、私は実際に1年の育休を取得しました。この記事では、育休申請時から取得直前までに直面した職場のリアルな反応や苦労、そしてそこで感じた葛藤をお伝えします。これから育休取得を考えている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
A課長の反応:育休は女の人が取るもの
育休を申し出るとき、一番最初に相談したのは直属のA課長でした。
タイミングは育休開始の約半年前。当時、私たち夫婦には第一子が生まれる予定で、私は1年間の育休を検討していました。
A課長に報告したところ、第一声は、
「育休って女の人が取るもんじゃ...」
まさに、本音が漏れたような感じで、その場の空気は重くなりました。今振り返ればハラスメント発言ですね。
私からは「自分もまだ制度に詳しいわけではないので、人事に相談しながら進めていきます」と伝えました。他のメンバーにも育休取得の件を伝えて良いか確認したところ、「チームメンバーにはまだ言わないでくれ」と言われ、その後しばらく動けず。モヤモヤしながら3か月ほど過ごすことになります。
上司Bの助言:「黙っている意味がない、すぐ動け」
育休開始の約3ヶ月前。時間だけが過ぎていくことに焦りを感じ、直属の上司Bに報告しました。
A課長には内密にするよう言われていたことで、報告ができなかったことを詫びるとともに、部下にもまだ伝えられていないことを話しました。
上司Bの反応は明快でした。
「A課長の言葉に従う必要はない。メンバーにはすぐ伝えるべきだし、人事にも今すぐ相談した方が良い。」
この言葉に背中を押され、ようやく自分の育休取得に向けて一歩を踏み出すことができました。
部下Cの反応:「おめでとう」より先に来た言葉
私が育休取得の話をした時、部下Cは私の子どもが生まれることすら知りませんでした。にもかかわらず、返ってきた第一声は、
「誰か代わりの人は補充されるんですか?」
部下Cは「自分の業務量が増えるのでは」と直感的に予想し、不満をにじませていました。
育休の話が「業務への影響」として真っ先に捉えられるのは、職場として当然の反応かもしれません。
それでも、子どもが生まれることへの一言もないまま業務負担の話だけが出てきたことには、育休を取ることに対して心理的ストレスを強く感じました。
人事部門の対応と、制度の「壁」
その後、人事部門の担当者Dにも相談しました。とても丁寧で、制度の説明や必要な手続きについても親身に対応してくれました。
ただし、気になることも言われました。
「部署によって育休の取りやすさには差がある。あなたの所属部は年齢層が高めで、正直育休を取りにくい。」
「最初に取る人は大変だけど、しょうがない。」
また、こうも言われました。
「課長への教育や啓発は、育休取得者が出たときに都度やっています。」
つまり、制度の仕組みはあるけれど、組織文化は職場ごとにまったく違う。
そして“最初の一人”になってしまうと、それなりの覚悟が求められる。
そうした現実を痛感するやりとりでした。
「ハラスメントになるから…」と部下に言わせる指示も
後日、部下Cから課長からの指示を伝えられました。
「自分が言うとハラスメントになるから、あなたから『1年も育休って長すぎだよね?そんなに取らなくてもいいんじゃない?』って言ってほしいと指示された」
指示するA課長と、その指示内容を私に伝える部下Cによるこうした“空気づくり”の圧力は想像以上に精神的負担になりました。
異動前に伝える難しさと、上司の動きが見えないストレス
1年という長期の育休を取得する以上、できるだけ早めに異動先の課長にも伝えるべきだという意識はありました。
しかし、実際には異動前に新しいE課長に話を切り出すのは心理的に難しく、「どのタイミングで、誰が伝えるのが適切か」に迷いがありました。
異動元のA課長が異動先に対してどのように話を進めているのかがまったく見えず、不安がつのるばかり。
結局、異動直前になって私からA課長に「E課長に引き継いでいますか?」と確認することになり、精神的なストレスを強く感じました。
結果的に引継ぎ自体はされていましたが、「必要なことは上司がきちんと対応してくれているはず」という信頼が持てず、動かざるを得なかった状況は、自分にとって心理的に大きな負担でした。
新しい上司たちの反応:表面上の理解と、にじみ出る本音
異動後、私はE課長に対して「A課長から聞いていると思いますが、1年間育休を取得します」と伝えました。
E課長からは「上司Fとしっかり話して、業務を引き継いでおいてね」と応じてくれましたが、席に戻るときにふと漏らした一言が心に残っています。
「自分だったら1年は怖くて取れないなぁ。」
悪意のある発言ではなかったと思います。でも、「1年育休」がいかに特異なものとして受け止められているかを、改めて感じました。
複数回に分けて行われた業務の引き継ぎの度に、上司Fに投げかけられた言葉はこうでした。
「キャリアについてどう考えているの?」
「本当に1年も取るの?そんなに取ってる人いるの?」
育休を取るな言うとハラスメントになるので、強く言われることはありませんでしたが、明らかに1年も育休を取ってほしくないという空気は伝わってきました。
「制度」ではなく「空気」の壁がしんどい
ある日、上司Fが2日間の出張から戻ってきた際、ミーティングでこう発言しました。
「長い間不在にしてすみませんでした。」
その言葉に私は少し引っかかりました。2日間の出張ですら“長くて申し訳ない”と言われる中で、自分はこれから1年間も職場を離れる。やはり育休を取ることに対する“心理的ハードル”及び”強いストレス”を感じました。
引き継ぎの時間もなかなか確保されず、自分の中にある焦りや罪悪感も募っていきました。
最後に:男性が1年育休を取るということ
育休を申し出ること自体は、制度上まったく問題のない正当な権利です。理解ある上司や人事担当者がいることが育休取得の決断の支えになります。
でも現実には、「男性が1年間取る」ことへの理解や配慮は、まだまだ十分とは言えません。私自身、この育休取得を通じて、「制度はあるけど、空気が許さない」という場面に多く直面しました。職場の空気と向き合い、言いづらさや圧力に耐えることが、何よりもしんどいという現実でした。
それでも、育児と向き合うこの1年の育休を「取ってよかった」と心から思っています。
そして同じように悩んでいる誰かの背中を、ほんの少しでも押せたならと思い、この体験を記しました。